
物体とスクリーンの間に凸レンズをおいて,凸レンズを動かしたとき,スクリーンにはっきりと像ができるときの凸レンズの位置は,レンズの式で求めることができたよね?
設定によっては,スクリーンにはっきりと像ができるときの凸レンズの位置は下のように二か所あるみたいなんだけど...
この二か所は対称性があると聞いたんだけど,どういうことなんだろう??


確かに,物体の位置Aとスクリーンの位置Bを固定して,その間に凸レンズを置き左右に動かしたときにスクリーンBにはっきりと像がうつるときの凸レンズの位置が二か所あるときには,次のような関係があります.

物体の位置Aとスクリーンの位置Bを固定しする.凸レンズから物体までの距離が$x$,凸レンズからスクリーンまでの距離が$y$でスクリーンにはっきりと像ができたときに,凸レンズから物体までの距離が$y$で凸レンズからスクリーンまでの距離が$x$の場所に凸レンズをおいてもスクリーンに像ができる.

たとえば,AB間の距離が$60\,\rm cm$で,$x=20\,\rm cm$,$y=40\,\rm cm$の場所に凸レンズをおいて,スクリーンにはっきりと像ができたとき,その反対の$x=40\,\rm cm$,$y=20\,\rm cm$の位置に凸レンズをおいてもスクリーンにはっきりと像ができるということだね!

はい.以下で,この説明をしていきます.
ちなみに,レンズの式については,以下を参考にしてください.
焦点距離を$f$,レンズとAにある物体との距離を$x$,レンズとスクリーンにできる像との距離を$y$とすると,レンズの式より

$\dfrac{1}{x}+\dfrac{1}{y}=\dfrac{1}{f}$

ちなみに,この式だけをみても,$x$と$y$を交換したものも解になりそうだね.
これを変形して
\begin{align*}
\dfrac{1}{y}&=\dfrac{1}{f}-\dfrac{1}{x}=\dfrac{x-f}{fx}
\end{align*}
逆数をとって
\begin{align*}
y&=\dfrac{fx}{x-f}=\dfrac{f(x-\textcolor{green}{f})+\textcolor{green}{f^{2}}}{x-f}\\
&=\dfrac{f\bcancel{(x-f)}}{\bcancel{x-f}}+\dfrac{f^{2}}{x-f}=f+\dfrac{f^{2}}{x-f}
\end{align*}
$y=f+\dfrac{f^{2}}{x-f}$のグラフは,$y=\dfrac{f^{2}}{x}$のグラフを$x$軸方向に$+f$,$y$軸方向に$+f$平行移動したものである.漸近線が$y=f$,$x=f$であることに注意して$y=f+\dfrac{f^{2}}{x-f}$のグラフを描くと次のようになる.

さらに,物体とスクリーンの距離,つまりAB間の距離を$L$とすると,
$x+y=L$ $\therefore\,\,\,y=-x+L$
の式が成り立つ.このとき,直線$y=-x+L$と双曲線$y=f+\dfrac{f^{2}}{x-f}$の間には,$L$の値によって,次の3つの位置関係を考えることができる.

(i) 直線と曲線が交わらないとき
(ii) 直線と曲線が接するとき
(iii) 直線と曲線が異なる2点で交わるとき
だね.
$y=-x+L$と$y=f+\dfrac{f^{2}}{x-f}$の式から,$y$を消去して
$-x+L=f+\dfrac{f^{2}}{x-f}$
両辺$x-f$をかけて
$(-x+L)(x-f)=f(x-f)+f^{2}$
展開し,$x$の降べきの順に並べて
$-x^{2}+fx+Lx-fL=fx-f^{2}+f^{2}$
$\therefore\,\,x^{2}-Lx+fL=0$
この二次方程式の判別式を$D$として
$D=L^{2}-4fL$
つまり,
(i) $D<0$ (ii) $D=0$ (ii) $D>0$
のときだね.
(i) $L^{2}-4fL<0$のとき

(ii) $L^{2}-4fL=0$のとき

(iii) $L^{2}-4fL>0$のとき


このように,凸レンズを動かしたときにスクリーンにはっきりと像がうつる位置は多くとも2か所です.3か所も4か所もあるわけではありません.
そして,2か所あるときは,$x+y=L$も$\dfrac{1}{x}+\dfrac{1}{y}=\dfrac{1}{f}$も$x$と$y$を交換しても同じ式になるため,そのグラフは$y=x$について対称となります.(上図)
つまり,その交点も$y=x$について対称となるわけです.

そうか!
たとえば,
$x+y=80$,$\dfrac{1}{x}+\dfrac{1}{y}=\dfrac{1}{15}$
の解の1つが,$(x,y)=(20,60)$のとき,$(x,y)=(60,20)$も解になるということだね.

そういうことになります.
この対称性を利用した問題を一つ解いてみましょう.
以下では,まず,2通りの倍率を考えて解いています.
レンズの式も相似比を考えることで導いています.
なぜ,物体と像の高さの比を考えているのかがわからない方は,以下の記事を参考にしてみてください.
物体とスクリーンの距離を$180\,\rm cm$に保ちながら平行に固定し,光軸がスクリーンに対して垂直になるように凸レンズを物体とスクリーンの間に置いた.凸レンズを光軸に平行に動かしたとき,ある2点P,Qで鮮明な実像がスクリーンに生じた.
Pにレンズを移動させたときにはスクリーンには大きさ$50\,\rm cm$の像ができ,Qにレンズを移動させたときには大きさ$2\,\rm cm$の像ができた.
このとき,凸レンズの焦点距離を求めよ.
<解答>
$\rm AP$間の距離を$a$,$\rm PQ$間の距離を$b$とすると,$\rm AQ$間の距離は$b$,$\rm BQ$間の距離は$a$となる.

Aにある物体の高さを$l$とすると,像の大きさが$50\,\rm cm$のときの倍率は,相似比を考えて
$\dfrac{50}{l}=\dfrac{b}{a} \cdots (\ast)$
像の大きさが$2\,\rm cm$のときの倍率は,相似比を考えて
$\dfrac{2}{l}=\dfrac{a}{b} \cdots (2\ast)$
$(\ast),(2\ast)$より,$l$を消去して
$b^{2}=25a^{2}$ $\therefore b=5a \cdots (3\ast)$
また,$a+b=180 \cdots (4\ast)$に$(3\ast)$を代入して$a,b$を求めると,
$(a,b)=(30,150)$
焦点距離を$f$として,レンズの式より
$\dfrac{1}{30}+\dfrac{1}{150}=\dfrac{1}{f}$ $\therefore\,\,f=\textcolor{red}{25\,\rm cm}$(答)
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