
今回は,2025年の関西学院大や2015年の大阪大にも出題された「櫛(くし)型コンデンサー」の電気容量を求める問題を扱います.

図のように,6枚の同形導体板の面どうしが平行になるように固定されている.導体板の面積は$S$であり,隣り合う導体の距離が$d$である.上図の一番上の導体板と上から3番目の導体板と上から5番目の導体板が導線で接続され,さらに,一番下の導体板と下から3番目の導体板と下から5番目の導体板も導線で接続されている.この装置は真空にあり,真空の誘電率を$\varepsilon_{0}$として,この6枚の極板と導線からできるコンデンサーの電気容量を$\varepsilon_{0},S,d$を用いて表せ.
<解答>

はじめてみる問題だからどのように解いていけばいいかわからないね...

一見,難しそうな問題も基本に立ち返って考えてみましょう.
コンデンサーに蓄えられている電荷を$Q$,コンデンサー間の電圧を$V$とすれば,コンデンサーの電気容量$C$は
$C=\dfrac{Q}{V}$
実際は
$Q=CV$
として使うことが多い.

そうか,このコンデンサーに蓄えられている電荷と電圧の関係を計算すればいいんだね.


はい.まず,上図の黒く塗った部分の電位を$0$とし,青い部分の電位を$V$とします.そして,導体板の名前を上から,A,B,C,D,E,Fとしましょう.
すると,極板A,Bで距離$d$,電位差$V$のコンデンサーができています.
同じく,BとC,CとD,DとE,EとFでも距離$d$,電位差$V$のコンデンサーができています.

電場の大きさを$E$,距離$\Delta x$の電位差を$\Delta V$とするとき,次の関係が成り立つ.
$E=\left|\dfrac{\Delta V}{\Delta x}\right|$

ということは,電位が高い方から低い方に電場が生じているから,
AからBの向きに大きさ$\dfrac{V}{d}$の電場が生じているんだね.
同じように,CからB,CからD,EからD,EからFの向きにそれぞれ大きさ$\dfrac{V}{d}$の電場が生じているね.
下でまとめてあるように,平面に分布した電荷がつくる電場は$\dfrac{Q}{2\varepsilon_{0}S}$なので,$Q$と$-Q$がつくる電場の和は
$\dfrac{Q}{2\varepsilon_{0}S}+\dfrac{Q}{2\varepsilon_{0}S}=\dfrac{Q}{\varepsilon_{0}S}$
となるね.
(たとえば,上側極板の電荷が$+Q$,下側極板の電荷が$-Q$の場合,$+Q$がつくる電場は上側電極から下側電極に向かって$\dfrac{Q}{2\varepsilon_{0}S}$で,$-Q$がつくる電場は上側電極から下側電極の向きに$\dfrac{|-Q|}{2\varepsilon_{0}S}=\dfrac{Q}{2\varepsilon_{0}S}$で,同じ方向,同じ大きさの電場がつくられる.)
十分に広い平面に一様な電荷$Q$が分布している.
真空の誘電率を$\varepsilon_{0}$,平面の面積を$S$とするとき,電場の大きさ$E$は
$E=\dfrac{|Q|}{2\varepsilon_{0}S}$
これは,電場が距離によらず一定であることを意味している.



Aの下側極板の電荷を$+Q$とすると,向い合う極板の電荷の絶対値は等しく,符号が逆なので,Bの上側極板の電荷は$-Q$となるね.
また,AからBに向かった電場とCからBに向かった電場は同じなので,BC間に蓄えられている電荷も同じであることがわかるね.つまり,Cの上側極板の電荷が$+Q$,Bの下側極板の電荷が$-Q$.
同じようにして,Cの下側極板の電荷が$+Q$,Dの上側極板の電荷が$-Q$.
Eの上側極板の電荷が$+Q$,Dの下側極板の電荷が$-Q$.
Eの下が側極板の電荷が$+Q$,Fの上側極板の電荷が$-Q$.
となります.
さきほども考えたように,隣り合う極板内の電場の大きさ$E$は
$E=\dfrac{V}{d} \cdots (\ast)$
でもあるし,
$E=\dfrac{Q}{\varepsilon_{0}S} \cdots (2\ast)$
とも表すことができるんだったね.


そして,極板A,C,Eの電荷の和(青色部分)は
$Q+2Q+2Q=5Q$
で,極板B,D,Fの電荷の和は
$(-2Q)+(-2Q)+(-Q)=-5Q$
です.
これを単純化すると上図のようになります.
すると電気容量の定義から,電気容量$C$は
$C=\dfrac{5Q}{V} \cdots (3\ast)$
となります.
コンデンサーに蓄えられている電荷を$Q$,コンデンサー間の電圧を$V$とすれば,コンデンサーの電気容量$C$は
$C=\dfrac{Q}{V}$
実際は
$Q=CV$
として使うことが多い.

$(\ast),(2\ast)$より
$\dfrac{V}{d}=\dfrac{Q}{\varepsilon_{0}S}$
を変形して
$\dfrac{Q}{V}=\dfrac{\varepsilon_{0}S}{d}$
を$(3\ast)$に代入すれば,電気容量が計算できるね.
$\dfrac{Q}{V}=\dfrac{\varepsilon_{0}S}{d}$を$(3\ast):C=\dfrac{5Q}{V}$に代入して
$C=5\times \dfrac{\varepsilon_{0}S}{d}=\textcolor{red}{\dfrac{5\varepsilon_{0}S}{d}}$ (答)


極板の数を一般化してみましょう.
すべての距離が等しく,平行な櫛型のコンデンサーの場合,合計$2n$の極板があるとして,電位$V$の方には$Q+2(n-1)Q=(2n-1)Q$の電荷が,電位が$0$の方は$-(2n-1)Q$の電荷が蓄えられます.
向かい合う極板同士のコンデンサーの容量を$C_{0}$とすると,
$Q=C_{0}V$ $\,\,\therefore \dfrac{Q}{V}=C_{0}$
が成り立つので,このコンデンサー全体の電気容量$C$は
$C=\dfrac{(2n-1)Q}{V}=(2n-1)C_{0}$
となります.
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