以下の$\fbox{ カ }$,$\fbox{ キ }$にあてはまる式を,$\fbox{ ク }$にあてはまる小数を有効数字2桁で答えよ.必要であれば,$\sqrt{2}\fallingdotseq 1.41$,$\sqrt{5}\fallingdotseq 2.24$,$\sqrt{7}\fallingdotseq2.65$を用いよ.
1930年にドイツのボーテとベッカーはポロニウム210の放射性崩壊で放出された放射線をベリリウム9($\ce{^{9}_{4}Be}$)に照射すると,透過率がきわめて高い放射線がでてくることを発見し,この放射線を「ベリリウム線」と名づけた.
1932年にイギリスのチャドウィックは,静止している水素 $\ce{^{1}_{1}H}$ の原子核にベリリウム線を照射すると,照射した方向に$5.60\rm MeV$の運動エネルギーをもつ陽子が放出されることを観測した.また,静止している窒素 $\ce{^{14}_{7}N}$ の原子核にベリリウム線を照射すると,照射した方向に$1.40\rm MeV$の運動エネルギーをもつ窒素 $\ce{^{14}_{7}N}$ の原子核が放出されることを観測した.
陽子の質量を$M[\rm kg]$とする.ベリリウム線を質量$m[\rm kg]$をもつ粒子であると仮定し,照射後ベリリウム線の粒子は照射した方向と逆方向に散乱されたとする.ベリリウム線の粒子と原子核の衝突は弾性衝突であるとし,衝突前のベリリウム線の粒子の速さを$v[\rm m/s]$とする.水素 $\ce{^{1}_{1}H}$ の原子核に照射したとき,放出された陽子の速さは$m$,$M$,$v$のみを用いて$\fbox{ カ }[\rm m/s]$とあらわさせる.放出された陽子の速さの,放出された窒素 $\ce{^{14}_{7}N}$ の原子核の速さに対する比は,$m$の$M$に対する比$k(=\dfrac{m}{M})$のみを用いて$\fbox{ キ }$とあらわされる.よって,$k$の値は$\fbox{ ク }$と求められる.
<解答>

未知な放射線「ベリリウム線」の正体を考える問題です.
ここでは書かれていませんが,実際の問題では,「ベリリウム線」が電磁波であるとすると,つじつまが合わないという考察がされています.
そこで,「ベリリウム線」を質量$m$の粒子であるとして,話がすすみます.
$\fbox{ カ }$では,ベリリウム線を照射した後の陽子(水素原子核)の速さをきいています.
弾性衝突とみなすことができると書かれているので,
運動量保存則と反発係数の式
を立てて問題を解きましょう.
ベリリウム線の衝突後の速度を$v^{\prime}$,衝突後の陽子の速度を$V_{\rm p}$としましょう.

★ 運動量保存則
$mv+M\cdot 0=mv^{\prime}+MV_{\rm p}$ $\dots (\ast)$
★ 反発係数の式
$1=-\dfrac{v^{\prime}-V_{\rm p}}{v-0}$
$\therefore$ $v^{\prime}=V_{\rm p}-v$ $\dots (2\ast)$
$(\ast)$,$(2\ast)$より,$v^{\prime}$を消去すると
$\eqalign{mv&=m(V_{\rm p}-v)+MV_{\rm p}\cr (M+m)V_{\rm p}&=2mv\cr V_{\rm p} &=\dfrac{2m}{M+m}v (\clubsuit)}$
したがって,$\fbox{ カ }$$\dfrac{2m}{M+m}v$(答)

同様に,「ベリリウム線」と窒素原子核の衝突を考えます.
窒素原子核の質量を$m_{\rm N}$,衝突後のベリリウム線と窒素原子核の速度をそれぞれ$v^{\prime\prime}$,$V_{\rm N}$としましょう.

★ 運動量保存則
$mv+m\cdot 0=mv^{\prime\prime}+m_{\rm N}V_{\rm N}$
★ 反発係数の式
$1=-\dfrac{v^{\prime\prime}-V_{\rm N}}{v-0}$
以上2式を$V_{\rm p}$を計算したときと同様に,$v^{\prime\prime}$を消去すると
$V_{\rm N}=\dfrac{2m}{m_{\rm N}+m}v$ $\dots (\heartsuit)$
$(\clubsuit)$と$(\heartsuit)$より
$\eqalign{\dfrac{V_{\rm p}}{V_{\rm N}}&=\dfrac{\dfrac{2m}{M+m}v}{\dfrac{2m}{m_{\rm N}+m}v}\\&=\dfrac{m_{\rm N}+m}{M+m}}$
陽子の質量数は$1$,窒素原子核の質量数は$14$なので,$m_{\rm N}=14M$したがって
$\eqalign{\dfrac{V_{\rm p}}{V_{\rm N}}&=\dfrac{14M+m}{M+m}\\&=\dfrac{14+\dfrac{m}{M}}{1+\dfrac{m}{M}}\\&=\dfrac{14+k}{1+k}}$
(途中問題文で与えられた$k=\dfrac{m}{M}$を用いた)

したがって答えは,$\fbox{ キ }$$\dfrac{14+k}{1+k}$(答)です.

最後に$k$の値を求めます.
これは,陽子の運動エネルギーが$5.60\rm MeV$であることと,窒素原子核の運動エネルギーが$1.40\rm MeV$であることを利用します.
$\eqalign{\dfrac{\dfrac{1}{2}MV_{\rm p}^{2}}{\dfrac{1}{2}m_{\rm N}V_{\rm N}^{2}}&=\dfrac{5.60}{1.40}\cr\dfrac{MV_{\rm p}^{2}}{m_{\rm N}V_{\rm N}^{2}}&=4\cr \dfrac{V_{\rm p}^{2}}{V_{\rm N}^{2}}&=\dfrac{4m_{\rm N}}{M}}$
さらに,$m_{\rm N}=14M$より
$\eqalign{\left(\dfrac{V_{\rm p}}{V_{\rm N}}\right)^{2}&=\dfrac{4\cdot 14M}{M}\\&=56}$
$\therefore$ $\dfrac{V_{\rm p}}{V_{\rm N}}=2\sqrt{14}$
$\fbox{ キ }$で求めた$\dfrac{V_{\rm p}}{V_{\rm N}}=\dfrac{14+k}{1+k}$であることから
$\eqalign{\dfrac{14+k}{1+k}&=2\sqrt{14}\cr \ 14+k &=2\sqrt{14}(1+k)\cr(2\sqrt{14}-1)k&=2(7-\sqrt{14})\cr k&=\dfrac{2(7-\sqrt{14})}{2\sqrt{14}-1}\cr k&=\dfrac{2(13\sqrt{14}-21)}{55}}$

ここで,$\sqrt{2}\fallingdotseq 1.41$,$\sqrt{7}\fallingdotseq2.65$を使うと,$k=1.0$(有効数字2桁)が導かれます.
ちなみに,元の式を2乗して根号を外してから2次方程式を解こうとすると大変なことになります.
$\fbox{ ク }$$1.0$(答)
のちにベリリウム線は,中性子であることがわかりました.陽子と中性子の質量の比は約1:1であることは知っていますね.(厳密には違います.)
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