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厚さ$d$,空気に対する相対屈折率$n(>1)$の薄膜に入射した光の反射による干渉を考える.ただし,$d$は十分小さい.空気側から薄膜に向けて光を垂直に当てたとき,光の一部は反射され,一部は薄膜に透過し,媒質Iの境界で反射されたのち,再び空気にもどっていった.このとき,次の問いに答えよ.ただし,薄膜中での光の波長を$\lambda_{1}$とする.
(1) 媒質Iが空気であるとき,強め合いの条件と弱め合いの条件を$\lambda_{1}$,$d$,自然数$m$を用いてかけ.
(2) 媒質Iの空気に対する屈折率が$n^{\prime}(>n)$のとき,強め合いの条件と弱め合いの条件を$\lambda_{1}$,$d$,自然数$m$を用いてかけ.
<解答>
(1)

位相差による干渉条件を確認していきましょう.
地点Pにおける2つの波の位相差を$\phi$,整数を$m$とすると,
強め合いの条件:$\phi=2\pi m$
弱め合いの条件:$\phi=(2m+1)\pi $
位相差$\phi$は次の3つの要素で決まる.
$\phi_{1}$:初期位相のずれ
同位相なら$\phi_{1}=0$,逆位相なら$\phi_{1}=\pi$
$\phi_{2}$:反射による位相のずれ
自由端反射なら$\phi_{2}=0$,固定端反射なら$\phi_{2}=\pi$
$\phi_{3}$:距離の差(屈折率が変わることで生じる光学的な距離の差を含む)による位相のずれ
距離の差が$\Delta l$のとき,次の比例式を立てて,位相差$\phi_{3}$を計算する.
$2\pi : \lambda =\phi_{3} : \Delta l$
$\therefore \phi_{3}=\dfrac{2\pi}{\lambda}\Delta l$
このとき,位相差$\phi$は
$\phi=\phi_{1}+\phi_{2}+\phi_{3}$

また,固定端反射なのか自由端反射なのかは次の図で確認していきましょう.


空気から薄膜での反射は,屈折率が小さい方から大きい方への反射なので固定端反射です.つまり,位相が$\pi$ずれます.
一方,薄膜から空気での反射は屈折率が大きい方から小さい方への反射なので,自由端反射です.つまり,位相のずれなしです.
すなわち,反射に位相のずれは総合で$\pi$ずれます.
また,距離の差は,$2d$なので,距離による位相差は$\varDelta \varphi$,
$\varDelta \varphi=\dfrac{2\pi}{\lambda_{1}}\cdot 2d+\pi$
強め合いの条件は,
$\varDelta \varphi=2\pi m$
$\dfrac{4\pi d}{\lambda_{1}}+\pi =2\pi m$ (答)

$2d=\left(m-\dfrac{1}{2}\right)\lambda_{1}$
ともかけるね.
弱め合いの条件は
$\varDelta\varphi=(2m+1)\pi$
$\therefore \dfrac{4\pi d}{\lambda_{1}}+\pi =(2m+1)\pi$ (答)

今回$m$は自然数です.
もし,右辺を$(2m-1)\pi$としてしまうと,$m=1$のとき,$\pi$となってしまいます.
一方,左辺は$\pi$より大きいので,$m=1$のときは等式が成り立ちません.
だから,右辺を$(2m+1)\pi$としました.
また,上の式は
$2d=m\lambda_{1}$
とも変形できますね.
(2)

(2)では,空気と薄膜および,薄膜と媒質Iの間のどちらでも固定端反射をするので,結局反射による位相のずれは0となります.
つまり,(1)の強め合いと弱め合いの条件が逆になりますね.
位相差$\varDelta \varphi$は,
$\varDelta \varphi=\dfrac{2\pi}{\lambda_{1}}\cdot 2d$
です.
強め合いの条件
$\varDelta \varphi=2\pi m$
$\dfrac{4\pi d}{\lambda_{1}}=2\pi m$ (答)
($2d=m\lambda_{1}$)
弱め合いの条件
$\varDelta\varphi=(2m+1)\pi$
$\therefore \dfrac{4\pi d}{\lambda_{1}}=(2m-1)\pi$ (答)
($2d=\left(m-\dfrac{1}{2}\right)\lambda_{1}$)

こちらは右辺を$(2m+1)\pi$とすると,$m=1$のとき,$3\pi$になり,$\pi$が表現できないため,$(2m-1)\pi$とする必要があるんだね.

次回の内容はこちらです.
コメント
[…] […]
位相差による干渉条件を考えるとき経路中に屈折率nの媒質があっても
2π : λ =φ3 : ΔL
となるのは何故でしょうか?
媒質中は波長はλ/nとなるので、空気中での比例式を立てると
2π : λ/n =φ3 : ΔL
とならないのでしょうか
この問題では,薄膜中の光の波長を$\lambda_{1}$と設定したからです.
もし,真空中の光の波長が$\lambda$であれば,薄膜中では$\dfrac{\lambda}{n}$とする必要があります.
要は,問題文で与えられた物理量が何なのかということで,割と引っかかりやすいので用意した問題です.
ご解答ありがとうございます。理解できました。ただ、疑問がもう一つ出てきてしまい、お手数ですが教えて頂けますか?「経路内の反射で起こる位相差φ2は、光路内で2回固定端反射したら、1回目の反射で位相がπずれ、2回目の反射でπずれるから、反射による位相のずれは合計でφ2=0となる」とのことのようですが、φ2=π+π=2πにならないのは何故でしょうか?これを光路差による干渉条件で確かめると確かにφ=0でなければ同じ干渉条件の式にはならないことは分かりました。しかし、位相差で解くなら経路差で検算しなくても理屈は知っておきたいです。φ2=π−π=0ということなのですよね。何故φ2=π+π=2πでなくて、φ2=π−π=0となるのでしょうか?固定端反射のたびに±が反転すると知識として理解するしかないんでしょうか?
大変遅くなり申し訳ございません.今気づきました。
ちゃんとかくと,次のようになります.光が空気と薄膜の境目にきたときの位相を$\omega t$とします.
すると,ここで反射した位相は$\phi_{1}=\omega t+\pi$です.
一方,このまま透過して,薄膜と媒質Iの間で反射して再び空気と薄膜の境目にきたときの位相は
$\phi_{2}=\omega t-\dfrac{2\pi}{\lambda_{1}}\times 2d+\pi$
です.なので,位相差は
$\Delta \phi=\phi_{1}-\phi_{2}=\left(\omega t+\pi\right)-\left(\omega t-\dfrac{2\pi}{\lambda_{1}}\times 2d+\pi\right)=\dfrac{2\pi\times 2d}{\lambda_{1}}$
となります.
お忙しいところ、ご返信ありがとうございました。経路差による位相差を考慮しなければならなかったのです。大変、よく理解することができました。本当にありがとうございまいした。