<解答>
今回は,2021年慶應義塾大の理工の第1問のやや取りくみにくい運動量保存則と力学的エネルギー保存則を立てる(エ)と(オ)のみを扱います.
今回の間違いやすいポイントは
「角度$\alpha$の位置において,床で静止した人からみたときの小物体の水平方向の速度は$-v_{\alpha}\sin\alpha$ではない.」
というところです.
つまり,$v_{\alpha}$を次のように分解してはだめです.
このような,角度の間違いは過去にもいろいろな問題で出ています.
このブログでも次の記事で扱っています.
● 設定
小物体が角度$\alpha$の位置にきたときの$\rm U$字型の物体の速度を$(V , 0)$,小物体の速度を$(v_{x},v_{y})$とします.(水平右向き,鉛直上向きをそれぞれ正とする.)
すると,$\rm U$字型の物体からみた小物体の速度(上図の緑の人からみた速度)は$(v_{x}-V ,v_{y})$となります.
まず,$\alpha\neq 90°$(すなわち,$v_{y}\neq 0$)のときから考えましょう.
このとき,$\rm U$字型の物体からみた(緑の人からみる)小物体の速さの比を考えると,次のようになります.
$\tan\alpha=\dfrac{-(v_{x}-V)}{v_{y}}$ $\dots (\ast)$
さらに,運動量保存則と力学的エネルギー保存則を立てましょう.
運動量保存則は水平方向の速度成分のみです.なので,小物体の速度は$v_{x}$を用います.
また,運動量保存則は基本的に静止している観測者から立ててください.
★ 水平方向の運動量保存則
$0=mv_{x}+MV$ $\dots (2\ast)$
★ 力学的エネルギー保存則
$\dfrac{1}{2}mv_{0}^{2}=\dfrac{1}{2}mv_{\alpha}^{2}+\dfrac{1}{2}MV^{2}+mgh(1+\sin\alpha)$ $\dots (3\ast)$
★ $v_{\alpha}$と$v_{x}$と$v_{y}$の関係
$v_{\alpha}^{2}=v_{x}^{2}+v_{y}^{2}$ $\dots (4\ast)$
あとは,これを解くだけだね.
まず,$\fbox{ (エ) }$では,速度$V$を問われているので,$v_{x}$や$v_{y}$を消去しましょう.
$(2\ast)$の$0=mv_{x}+MV$より
$v_{x}=-\dfrac{M}{m}V$ $\dots (5\ast)$
さらに,$(\ast)$の$\tan\alpha=\dfrac{-(v_{x}-V)}{v_{y}}$より
$\eqalign{v_{y}&=-\dfrac{v_{x}-V}{\tan\alpha}\\&=-\dfrac{1}{\tan\alpha}\left(-\dfrac{M}{m}V-V\right)\\&=\dfrac{1}{\tan\alpha}\cdot\dfrac{M+m}{m}V \dots (6\ast)}$
上式では,途中$(5\ast)$の$v_{x}=-\dfrac{M}{m}V$を代入しました.
さらに,$(4\ast)$の$v_{\alpha}^{2}=v_{x}^{2}+v_{y}^{2}$に$(5\ast)$の$v_{x}=-\dfrac{M}{m}V$と$(6\ast)$の$v_{y}=\dfrac{1}{\tan\alpha}\cdot\dfrac{M+m}{m}V$を代入して,
$\eqalign{v_{\alpha}^{2}&=\left(-\dfrac{M}{m}V\right)^{2}+\left(\dfrac{1}{\tan\alpha}\cdot\dfrac{M+m}{m}V\right)^{2}\cr V&=\dfrac{m\tan\alpha}{\sqrt{M^{2}\tan^{2}\alpha +(M+m)^{2}}}v_{\alpha}}$
このままでは,$\alpha=90°$ときに使えない式になってしまうので,分子分母に$\cos\alpha$をかけて,$\tan$をなくしましょう.
$\therefore V=\dfrac{m\sin\alpha}{\sqrt{M^{2}\sin^{2}\alpha +(M+m)^{2}\cos^{2}\alpha }}v_{\alpha}$ ($\fbox{ (エ) }$の答)
しかし,これは$\alpha=90°$のときは除いています.
$\alpha=90°$のとき,上式は
$V=\dfrac{m}{M}v_{\alpha}$
です.
実際,$\alpha=90°$のときは,$v_{x}=-v_{\alpha}$です.
運動量保存則より,
$0=m(-v_{\alpha})+MV$
なので,$V=\dfrac{m}{M}v_{\alpha}$となり,答えの式を満たしています.したがって,$0°<\alpha<180°$のすべての角度で答えの式が成り立ちます.
最後に,(エ)で得た式
$V=\dfrac{m\sin\alpha}{\sqrt{M^{2}\sin^{2}\alpha +(M+m)^{2}\cos^{2}\alpha }}v_{\alpha}$
を$(3\ast)$の式
$\dfrac{1}{2}mv_{0}^{2}=\dfrac{1}{2}mv_{\alpha}^{2}+\dfrac{1}{2}MV^{2}+mgh(1+\sin\alpha)$
に代入して$v_{\alpha}$について解きます.
$\eqalign{mv_{\alpha}^{2}+MV^{2}&=mv_{0}^{2}-2mgh(1+\sin\alpha)\cr mv_{\alpha}^{2}+\dfrac{Mm^{2}\sin^{2}\alpha}{M^{2}\sin^{2}\alpha +(M+m)^{2}\cos^{2}\alpha}v_{\alpha}^{2}&=mv_{0}^{2}-2mgh(1+\sin\alpha)\cr \dfrac{M^{2}\sin^{2}\alpha +(M+m)^{2}\cos^{2}\alpha +Mm\sin^{2}\alpha}{M^{2}\sin^{2}\alpha +(M+m)^{2}\cos^{2}\alpha}v_{\alpha}^{2}&=v_{0}^{2}-2gh(1+\sin\alpha)\cr \dfrac{(M+m)(M+m\cos^{2}\alpha)}{M^{2}\sin^{2}\alpha +(M+m)^{2}\cos^{2}\alpha}v_{\alpha}^{2}&=v_{0}^{2}-2gh(1+\sin\alpha)\cr v_{\alpha}&=\sqrt{\dfrac{M^{2}\sin^{2}\alpha +(M+m)^{2}\cos^{2}\alpha}{(M+m)(M+m\cos^{2}\alpha)}\left\{v_{0}^{2}-2gh(1+\sin\alpha)\right\}}}$
したがって,$\fbox{ (オ) }$ $\sqrt{\dfrac{M^{2}\sin^{2}\alpha +(M+m)^{2}\cos^{2}\alpha}{(M+m)(M+m\cos^{2}\alpha)}\left\{v_{0}^{2}-2gh(1+\sin\alpha)\right\}}$ (答)
コメント
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