次のような方のための記事です.
- 保存力と非保存力の区別がつかない.
- 力学的エネルギー保存則の式は立てられるものの,力学的エネルギー保存則がどこから導出できるかがわかっていない.
- ゆっくりと動かしたときの保存力がする仕事と非保存力がする仕事の関係を知りたい.
保存力とは
保存力とは,経路によらず最初と最後の位置だけで仕事が決まる力のことを言います.
まずは,次の図のときを考えてみましょう.
上図のとき,Aから直接Dの場所に行く場合の重力がする仕事$W_{1}$はどのくらいでしょうか?
A→Dは重力の方向に$h$だけ移動しているから,重力がした仕事は$W_{1}=mgh$だね.
仕事の計算を復習しておきましょう.
そうですね.
では,A→B→C→Dまでに重力がした仕事$W_{2}$はいくらでしょう?
A→Bまでは,重力は反対方向に$2h$移動しているから$mg\cdot (-2h)=-2mgh$
B→Cまでは,重力の方向に$h$だけ移動しているから$mgh$
C→Dまでは,重力と同じ方向に$2h$進んでいるから$mg\cdot 2h=2mgh$
合計,
$-2mgh+mgh+2mgh=mgh$
だから,$W_{2}=mgh$だね.
$W_{1}=W_{2}$となっていますね.
重力は最初と最後の位置が定まれば,どんな経路を描いても仕事が同じとなります.
このような経路によらない,保存力は次のものを覚えておけばよいでしょう.
- 重力
- 万有引力
- 弾性力
- 静電気力(クーロン力)
- 観測者が等加速度直線運動しているときの慣性力
逆に,経路によって仕事が変化するものはどんなもの?
摩擦力や張力,垂直抗力など,上にかいてあるもの以外の力です.
たとえば,摩擦力は短い経路と長い経路では,摩擦力がする仕事に差が出ます.
経路によらず,最初と最後の位置だけで仕事が決まると,どのようにエネルギーが変化するのかが予想しやすいね.
そうなんです.
保存力は最初と最後の位置で仕事が決まるので,あらかじめどの程度仕事をしてくれるのかがわかります.
次は位置エネルギーの話です.
位置エネルギー
たとえば,Bの位置から見たときにAにある物体の重力がする仕事を考えてみましょう.
Aの位置にある物体にはたらく重力はどのような経路にせよ,Bにいくまでに$mgh$の仕事をすることが約束されています.
Bにいる位置から見ればAの物体は$mgh$の仕事をする潜在的な能力を持っているということだね.
はい.この潜在的なエネルギーを位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)といいます.
Bからみれば,Aにある物体は$mgh$の位置エネルギーを持っています.
逆にBからみて,Cは仕事をする能力が$mgh$分だけ少ないから,位置エネルギーは$-mgh$ってことかな?
そうなります.
では,問題演習をやってみましょう.
<解答>
(1) AはDより鉛直上方向$3h$の場所にあるから位置エネルギーは$U_{1}=$$3mgh$
(2) BはCより鉛直上方向$h$の場所にあるから位置エネルギーは$U_{2}=$$mgh$
(3) CはAより鉛直下方向$2h$の場所にあるから位置エネルギーは$U_{3}=$$-2mgh$
一般的な位置エネルギーの計算の仕方
他の位置エネルギーはどのように考えればいいの?
保存力と同じ大きさの力を保存力の向きとは反対方向に外力が仕事をした分だけ位置エネルギーが蓄えられます.
疑問がたくさんでてくる.
- そもそも同じ大きさの力を加えても動かないはず.
- なぜ,外力の仕事を考えるのか??
同じ大きさの力を加えても動かない??
これは結構間違う人が多いのですが,結論から言うと動きます.
力の和が0であることは加速度が0であって,速度が0であるとは言えません.
運動方程式
$ma=F$
からもわかると思います.
最初に初速を与えておいて,力の合力を0にして動かすっていうこと??
なぜ外力がした仕事を計算するのか.
そういうことです.
要は運動エネルギーが変化しないようにしたいんです.
エネルギーの原理を考えれば,
$\dfrac{1}{2}mv^{2}-\dfrac{1}{2}mv_{0}^{2}=$外力がした仕事
でした.
エネルギーの原理が何かわからない人は下の記事を読んでね.
そうか!外力がした仕事を$W_{外力}$,保存力がする仕事を$W_{保存力}$とすると,運動エネルギーが変化しないときは,次のようになるんだ.
$0=W_{外力}+W_{保存力}$ $\therefore W_{保存力}=-W_{外力}$ $\dots (\ast)$
そういうことです.
さらに,$W_{保存力}$と位置エネルギーの変化$\Delta U$の関係について考えましょう.
たとえば,AからBに移動するときを考えましょう.
AからBに移動する間に重力がした仕事$W_{1}$
はいくらでしょう?
また,AからBに移動する間の位置エネルギーの変化$\Delta U_{1}$
はいくらでしょう?
AからBでは重力がはたらく方向と移動の方向が一致しているから正の仕事だね.
$W_{1}=mg\cdot h$
あと,位置エネルギーの変化はAを基準にとると,Bは鉛直下向きに$h$の場所にあるから
$U_{1}=-mgh$
だね.
それでは,BからAに移動する場合を考えましょう.
BからAに移動する間に重力がした仕事$W_{2}$と,位置エネルギーの変化$\Delta U_{2}$を求めてください.
BからAに移動するとき,重力のはたらく方向と移動する方向が逆だから負の仕事だね.だから
$W_{2}=-mgh$
そして,Bを基準にすると,AはBより鉛直上向き$h$の場所にあるから位置エネルギーの変化は
$\Delta U_{2}=mgh$
位置エネルギーの変化を$\Delta U$,保存力がした仕事を$W_{保存力}$とすると,
$\Delta U=-W_{保存力}$ $\dots (2\ast)$
の関係があるんだね.
そうなんです.
保存力が正の仕事をした分,位置エネルギーが使われてしまい,保存力が負の仕事をすると,位置エネルギーが蓄えられます.
$(\ast)$の$W_{保存力}=-W_{外力}$と$(2\ast)$の$\Delta U=-W_{保存力}$から次の式を得ます.
$\Delta U=W_{外力}$
つまり,運動エネルギーの変化が0であるとき,外力がした仕事の分だけ位置エネルギーの変化を計算できるわけだね.
力学的エネルギーの変化=非保存力がした仕事
それでは,最後に運動エネルギーの原理を変形しておしまいにしましょう.
運動エネルギーの変化を$\Delta K$,保存力がする仕事を$W_{保存力}$,非保存力がする仕事を$W_{非保存力}$とします.
エネルギーの原理より
$\Delta K=W_{保存力}+W_{非保存力}$ $\dots (\clubsuit)$
また,位置エネルギーの変化を$\Delta U$として,
$W_{保存力}=-\Delta U$ $\dots (\spadesuit)$
$(\spadesuit)$を$(\clubsuit)$に代入して
$\Delta K=-\Delta U+W_{非保存力}$
$\therefore$ $\Delta K+\Delta U=W_{非保存力}$
左辺が力学的エネルギーの変化,右辺が非保存力がする仕事,だね.
非保存力がする仕事が0のとき,力学的エネルギーが保存するんだね.
コメント
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仕事のところ、力✖️変位はまずいのでは?力も変位もベクトルだと教わっているはずなので、外積となり、仕事ではありません。
力の大きさと移動距離の積と書くべきでしょう。変位が負の時はマイナスがつくという事を付け足さなくてはいけませんが。。
本当ですね.内積と書いておけばよかったです.訂正します.
ありがとうございました.