

薄膜の干渉の問題で,よく上のような図が出てくるよね.
このとき,青い光の経路と赤い光の経路の差は
$\rm{ABC-PC}$
だと思っていたんだけど,なぜか問題集の解答では
$\rm{QBC}$
の部分を経路差として計算していたんだよ.
なんでこんな風になるんだろう?

正確には,
位相差が生じる経路の差
ですね.理由は
$\rm{PC}$部分と$\rm{AQ}$部分には位相差がない
からです.

位相差について知りたい人はこちらの記事を読んでください.

干渉問題の位相差の計算はこちらで紹介したね.

それでは,$\rm{PC}$部分と$\rm{AQ}$部分には位相差がないことを確認しましょう.
まず,入射角と屈折角をそれぞれ$\theta_{1}$,$\theta_{2}$と設定します.
すると,$\rm{AQ}$部分の長さと$\rm{PC}$部分の長さはそれぞれ$\rm{AC}$,$\theta_{1}$,$\theta_{2}$を使ってどのように表すことができるでしょうか?


2つの直角三角形$\bigtriangleup \rm{AQC}$と$\bigtriangleup \rm{CPA}$の三角比を考えれば
$\rm{AQ}=\rm{AC}\sin \theta_{2}$,$\rm{PC}=\rm{AC}\sin \theta_{1}$
となるね.

次に入射角$\theta_{1}$,屈折角$\theta_{2}$,そして空気の波長$\lambda_{1}$と薄膜での波長$\lambda_{2}$の関係はどのようになりますか?

屈折の法則より
$\dfrac{\sin \theta_{1}}{\sin \theta_{2}}=\dfrac{\lambda_{1}}{\lambda_{2}}$
だね.

そうです.その式は次のようにも変形できますね.
$\dfrac{\lambda_{1}}{\sin\theta_{1}}=\dfrac{\lambda_{2}}{\sin\theta_{2}}$ $\dots (\ast)$
では,最後に位相差についてです.
経路に対応する位相は次のように比例式を立てるとよいでしょう.
★経路$\rm{PC}$部分による位相のずれ$\phi_{1}$
$2\pi : \lambda_{1} = \phi_{1} : \rm{PC}$
$\eqalign{\phi_{1}&=\dfrac{2\pi}{\lambda_{1}}\rm{PC}\\&=\dfrac{2\pi}{\lambda_{1}}\rm{AC}\sin \theta_{1}}$ $\dots (\clubsuit)$
★経路$\rm{AQ}$部分による位相のずれ$\phi_{2}$
$2\pi : \lambda_{2} = \phi_{2} : \rm{AQ}$
$\eqalign{\phi_{2}&=\dfrac{2\pi}{\lambda_{2}}\rm{AQ}\\&=\dfrac{2\pi}{\lambda_{2}}\rm{AC}\sin \theta_{2}}$ $\dots (\spadesuit)$

$(\ast)$の$\dfrac{\lambda_{1}}{\sin\theta_{1}}=\dfrac{\lambda_{2}}{\sin\theta_{2}}$を$(\clubsuit)$に代入すると$(\spadesuit)$になるね!
$\eqalign{\phi_{1}&=\dfrac{2\pi}{\lambda_{1}}\rm{AC}\sin \theta_{1}\\&=\dfrac{2\pi}{\lambda_{2}}\rm{AC}\sin \theta_{2}\\&=\phi_{2}}$
$\phi_{1}=\phi_{2}$だからこの部分の位相差は考えなくてもいいんだ.


$\rm{PC}$部分と$\rm{AQ}$部分には位相差がないことを確かめたので,残りの$\rm{QBC}$部分の経路による位相差を調べましょう.
次のように少し工夫して計算するとよいです.


$\rm{BC}$部分を薄膜と空気の境界である直線$l$について折り返します.
すると,$\rm{QB+BC}$の代わりに$\rm{QB+BC’=QC’}$を計算すればいいことが確認できます.
そこで,直角三角形$\bigtriangleup {\rm CQC’}$を考えます.
${\rm CC’}=2d$であり,平行線の錯角から$\angle \rm{CC’Q}=\theta_{2}$なので,
${\rm QC’}=2d\cos \theta_{2}$
となります.

では,これを位相差に直そう!
位相差を$\phi$として,,,
$\eqalign{2\pi : \lambda_{2}&=\phi : 2d\cos\theta_{2}\cr \phi &=\dfrac{2\pi}{\lambda_{2}}\cdot 2d\cos\theta_{2}\cr \phi &=\dfrac{4\pi d \cos \theta_{2}}{\lambda_{2}}}$

確か,位相差が生じる原因は次の3つだったね.
位相差$\phi$は主に次の3つの位相差によって決まる.
$\phi_{1}$:初期位相のずれ
$\phi_{2}$:反射による位相のずれ
$\phi_{3}$:距離の差(屈折率が変わることで生じる光学的な距離の差を含む)による位相のずれ
このとき,位相差$\phi$は
$\phi=\phi_{1}+\phi_{2}+\phi_{3}$

はい.なので,反射による位相のずれも考えましょう.
$n_{2}>n_{1}$とします.
すると,赤の経路の反射であるCでは固定端反射し,青の経路であるBでは自由端反射します.

じゃあ,片方は位相が$\pi$ずれて,もう片方は位相のずれはないので,合計位相が$\pi$ずれるね.
念のため,自由端反射と固定端反射の位相のずれも次の図で確認しておこう.


そして,強め合いの条件と弱め合いの条件の確認です.
地点Pにおける2つの波の位相差を$\phi$,整数を$m$とすると,
強め合いの条件:$\phi=2\pi m$
弱め合いの条件:$\phi=(2m+1)\pi $
位相差$\phi$は次の3つの要素で決まる.
$\phi_{1}$:初期位相のずれ
同位相なら$\phi_{1}=0$,逆位相なら$\phi_{1}=\pi$
$\phi_{2}$:反射による位相のずれ
自由端反射なら$\phi_{2}=0$,固定端反射なら$\phi_{2}=\pi$
$\phi_{3}$:距離の差(屈折率が変わることで生じる光学的な距離の差を含む)による位相のずれ
距離の差が$\Delta l$のとき,次の比例式を立てて,位相差$\phi_{3}$を計算する.
$2\pi : \lambda =\phi_{3} : \Delta l$
$\therefore \phi_{3}=\dfrac{2\pi}{\lambda}\Delta l$
このとき,位相差$\phi$は
$\phi=\phi_{1}+\phi_{2}+\phi_{3}$

じゃあ,今回の強め合いの条件と弱め合いの条件は次のようになるね.
★強め合いの条件
$\dfrac{4\pi d \cos \theta_{2}}{\lambda_{2}} +\pi =2\pi m$

もし選択式の問題の場合は,上の形を変形したものがでる可能性もあります.
適する形に変形できるようにしておきましょう.
また,今回は反射による位相差が$\pi$としましたが,屈折率の関係によっては,ずれがないこともあるので,その都度考えて下さい.
★弱め合いの条件
$\dfrac{4\pi d \cos \theta_{2}}{\lambda_{2}} +\pi =(2m-1)\pi$

上図において,$\rm PC$と$\rm AQ$部分の位相差はないので,距離による位相差は$\rm QBC$の部分だけを考えればよい.
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